平成25年度「新学術領域研究(研究領域提案型)」新規採択研究領域 | |
領域番号 | 4502 複合領域 |
研究領域名 | こころの時間学 — 現在・過去・未来の起源を求めて — |
領域代表者 | 北澤 茂 (大阪大学・大学院生命機能研究科・教授) |
研究期間 | 平成25〜29年度 |
- 北澤 茂 教授
本領域の目的
我々は、ヒトにおいて特に発達した現在・過去・未来にわたる時間の意識を「こころの時間」と名付ける。この時間の意識は、ヒトにおいて特に発達した高度な認知機能である。1) 認知症の検査では、今日の日付を問う。今日が「いつ」であるのか、は人間生活の基本情報であるがヒト以外の動物には認識できない。2) ほとんどの言語は、厳密な時制を持っている。われわれの意識が、過去と現在と未来に常に注目していることを示す明瞭な証拠である。3) 人は死、未来の終点、を恐れる。一方、ヒト以外の動物は、チンパンジーですら、絶望的な障がいを負っても恐れを感じているようには見えないという。未来を思うこころはヒトで特に発達したと考えられる。このヒト特有の時間の意識 — こころの時間 — は、どこから生まれてくるのか。本領域は現在、過去、未来にわたる「こころの時間」の成り立ちを、心理学、生理学、薬理学、臨床神経学を専門とする神経科学者と、ヒト特有の時間表現に精通した言語学者と哲学者、こころの起源を追究する比較認知科学者との間で共同研究を展開することで解明し、新たな学問領域「こころの時間学」を創出することを目指す。
本領域の内容
本領域には6つの研究項目 (A01-A04, B01, C01) を設ける。項目A01-A03では神経科学的な手法をヒトや実験動物に適用してこころの「現在」(A01)、「過去」(A02)、「未来」(A03) の神経基盤の解明を目指す。項目A04ではこころの時間の「病態・病理」の研究を推進する。さらに、言語学・哲学 (B01)、比較認知科学 (C01) から「こころの時間」にアプローチする。
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期待される成果と意義
研究項目間の有機的な相互作用を通じて生まれることが期待される成果を3点挙げる。
- 1)「言語学」の時制の理論と「神経科学」「臨床神経心理学」の相互作用を通じて脳に「時間地図」を描く。もし発見されれば、1950年代に確立した、Penfield の体性機能局在地図に匹敵する成果になるだろう。
- 2) 実験動物を使った最先端研究で開発される「こころの時間」の操作法を臨床応用につなげる。「過去」の記憶が定着しない認知症や「過去」に囚われてしまう心的外傷後ストレス障害 (PTSD)、「未来」への希望が喪失するうつ病などの症状改善に応用できるだろう。
- 3)「比較行動学」と「心理学」「神経科学」「言語学」の融合で、時間認識の発生が明らかになる。「こころの時間」はヒトの特徴であるものの、他の認知機能と同様に、系統発生の結果として生じたはずである。本領域で対象とするげっ歯類、ニホンザルやチンパンジーとヒトを比較することで系統発生が、また発達過程を研究することでヒトの中での個体発生が明らかになる。